【食べる機能を知る 摂食嚥下の5期モデル Part 3 認知期2 嗅覚】

認知期(先行期)のおさらい(認知期1から)

摂食嚥下の始まり,目・鼻・耳で「食物を認知」にして,手・食具で食べ物の硬さなどの「物性を触知」「食べ物を口へ運ぶ」過程が認知期です.

においを感じる(嗅覚)

食べ物の”におい”は食事の楽しさを引き上げます.目の前にでてきた食物から立つ香りは,鼻に入りその食べ物のイメージや快・不快の感覚を呼び起こします.ここで興味深いのは,”におい”は人によって感じ方が異なるという点です.”におい”に対する快・不快は学習によって生まれた後に刻み込まれていく感覚なんです.

「嫌いな食べ物は鼻をつまんで食べるといいよ.」,「ワインを口に含んだ後は息と吸わないとね.」,「鼻が詰まると美味しさが半減する.」というのは,科学的に正しい方法なんです.

人には約400個の嗅覚受容体という”におい”を受け止めるセンサーが存在します.”におい”とは,揮発性の分子量300以下の化合物です.ある”におい”が鼻に入ってきたとき,その”におい”物質が複数の嗅覚受容体(センサー)を刺激することで,嗅神経を介して伝わっていきヒトは”におい”を感じ,イメージし,記憶するのです.では,”におい”がどのように体にはってきて私たちが認知するか見ていきましょう.

今回は,口に食べ物を入れるまでの認知期での嗅覚の役割です.つまり,オルソネーザル(鼻先香)と言われる鼻から吸い込んだ空気により感じる部分を扱います.摂食嚥下の5期モデルのい中で準備期にも,レトロネーザル(口中香)といい咀嚼(モグモグ)により”におい”が喉から鼻に回り嗅覚受容体を刺激します.ヒトが食べ物の風味を感じること,鼻がつまって美味しさが感じにくいなどの事象は,このレトロネーザルが上手く使えないことによるものです.これは準備期で説明したいと思います.

先行期へのアプローチ

食べる機能が障害された場合,この認知期へのアプローチってとても大切だと思います.例えば,経管栄養で経口からの摂取がない場合でも香りをかいでいただくとか,「食事ですよ」と声掛けするとかそれによって食事の認知ができ消化管の運動も迷走神経を介して行われるようになります.

認知機能低下においても,嗅覚の低下という症状が出てくることも報告されています.また,障がい児者へのアプローチにおいても,例えば食品を温めて団扇であおぐ,製菓材料のバニラやアーモンドエッセンスを活用することで”におい”を楽しみながら摂食が進む可能性もあ有効と言われています.

においと老化

年齢を重ねると甘いものが好きになった,視力が落ちてきたなんて話聞いたことありませんか.”におい”も味覚や視力と同様で老化とともに感じやすさは変化しますこれは,単に衰えていくというよりかは,皮膚とかと同じで,新しく生まれ変わるサイクルが長くなるイメージです.衰えた細胞は,若い時は1か月程度で常に新しい細胞に置き換わっているのです.その感覚が70代以降長くなり,そのため”におい”が感じにくくなったりにおいのかぎ分けが難しくなったりするのです.

においの情報伝達

鼻の粘膜に入ってきた”におい”(低分子化合物)は,嗅覚受容体(センサー)に結びつきます.嗅覚受容体の内部が活性化することで電気刺激が生まれ嗅神経細胞の興奮が起きます.ヒトの神経を介した情報伝達はこの電気的な信号の変化と化学物質の放出によって伝わります.この興奮が起きている間は,同じセンサーは次の刺激に対して働きにくくなっています(脱感作).例えば,においに対する慣れはこの脱感作が大きく影響しています.嗅神経細胞の情報は,嗅球(嗅覚一次中枢)の糸球体に収束されて嗅覚中枢へ伝わっていきます.